離れられない
半同棲生活は4カ月目に突入。
サラリーマンの朝は早い。
眠気眼の彼女の頬にキスをして、遮光カーテンを半分開けて観葉植物を日の射す場所へ移す。
渋滞に飲み込まれ、やっとの思いで会社に着く頃には、彼女も自分のアパートに戻り、息子くんの見送りが終わっている。
職種は違えどお互いPCと向き合っての仕事。体力的には楽だが、目の疲れが半端ない。
仕事を終え、辛口の白ワインとアテを買って帰宅するのが日課だ。
駐車場から見える部屋の明かりは、とても穏やかな気持ちにさせてくれる。
足早に自室へ向かうと料理の匂いが玄関の外までこぼれてくる。
いつも全部ありがとネ。
ん~?何が?
家事全部。本当に助かります。俺がやらなきゃいけないのに。
フフ♪気にしなくていいよ。
晩御飯が出来てるって、幸せだわ~。
ふーん・・・いつまで続くかな~笑
3人で食卓を囲み、子供の就寝まで思い思いの時を過ごし、寝息を立てたのを確認してからが2人の時間。
白ワインを飲みながら肩を並べて映画を見るのが至福の時だ。
パートナーと生活するのは初めてではない。
しかし、今の暮らしは間違いなく僕が望んでいたそのままだ。
彼女と出逢い、半同棲生活をするまで紆余曲折あったが、1人で部屋に居るたった数時間がとても辛い。
用事が無ければ1日中PCと向き合えていたのに、引っ越してから"この時間"が全くダメだ。
彼女と出逢い、LikeとLoveの違いが解った。
彼女を想い、人付き合いの本質を見た。
彼女になら、俺は弱い部分を見せることが出来る。
ここまで離れずに尽くしてくれる女性を俺は知らなかった。
失いたくないな。
今までで1番。
最高のパートナー。
変化
家具の配置を考えているときに、彼女にいたずらっぽくワガママを言った。
時間が許す限り、遠慮なく泊まりに来て欲しいなぁ。
調子いいこと言って~!
いや、本気だよ?俺としては毎日寝顔見たいんだけど。
毎日って笑 ほら、これってシングルベッドじゃない。2人で寝るには狭いよねー。
密着して寝れるじゃ~ん♪
暑苦しいし・・・
Σえ?
冗談よ笑 仕事の疲れ抜けなくない?
それはどうかなぁ。でも今日だけは絶対泊まりだよ?初日は一緒に寝たいのです!
そのつもりだけど?息子は元主人の家にお泊りだし笑
あれ?そうなの?やった・・・!あ、もちろん息子くんも来てくれて構わないからね!
さすがにそれは。。。でもこの部屋Wi-Fiあるからあの子入り浸りそう・・・爆
嫌がらないなら大歓迎だよ?笑
そっか。ありがとうございます。じゃあ考えとくね。
うん。それと、部屋のコーディネート任せていいかな?お互いがリラックスできる空間にしたい!
ホントにいいの?
何度も言わせないで。遠慮はいらない。あとでカーテンとか追加のカラーBOXとか一緒に選ぼうね♪
なんだか楽しそうね笑
お蔭様で♪ありがとね!
はーい♪
壁紙が白ということもあり、ダークグレーのカーテンと白のレースカーテンを購入。
息子くん泊まりに来た時用に、このソファーベッド(グレー)も買っておこうか!
えー!いいの?なんか1人暮らしじゃなくなってない?笑
最初から3人でも不自由なく暮らせるようにする狙いなんだけど?
入リ浸リマスヨ・・・?
どうぞお構いなく笑
ンフフ~♪
元々持っていた家具が黒ということもあり、カーペットや机も黒をチョイスし、必然的にカラーテーマはモノクロームトーンとなった。
全ての整理整頓と配置が終わってから彼女が一言。
ん~・・少し暗すぎるかなぁ?
数日後、仕事から帰るとエバーフレッシュが追加されていた。
観葉植物を自分の部屋に置くのは初。
一気にオシャレ感が増す。
カラーBOXに金属板風のシートを貼ったり、100均で買い揃えたパーツをDIYしキーフックを作成したりと彼女の本気度が垣間見えた。
彼女は自宅の用事を済ませてから下の子と共にウチに泊まりに来るという2重生活。
たまに時間を割いて僕の部屋のことまでやってくれている。
決して楽ではないはずなのに、これまで忙しそうな素振りや面倒くさそうな顔を見せたことがない。
ママ歴18年は伊達ではなかった。
半同棲生活も今日でちょうど1カ月。
キッチンの主導権はもちろん僕。
彼女に僕の手料理を食べて欲しいし、ゆっくりしていって欲しいからだ。
LINEは連絡事項のみで使用し、極力会話のネタはあった時に話すようにしている。
お蔭で以前より笑い合っている時間が増えた。
相手と向き合うことの大切さを改めて知ることが出来たように思う。
心機一転
多方面の友人からのサポートで引っ越しは難なく終わった。
大型の荷物は運送会社を営む先輩に頼んだ。
あいにくの雨模様だった引っ越し当日、実家にカーゴトラックで先輩の息子さんと共に乗りつけてくれた。
移動時間も含め、荷物の搬出/搬入は3時間で終了。
荷物の整理整頓は、引っ越し先で彼女に手伝ってもらい、いくつか未開封のダンボールは残ったが寝床確保まで半日もかからなかった。
はい。コレ。
え?いいの?
荷物整理も落ち着いたタイミングで不動産屋から貰った片方の鍵を差し出した。
当然でしょ。彼女だもん。ここは好きに使っていいから。
え~?知らない女と鉢合わせるの嫌だな~笑
それはないよ笑 実の子は来たがるし、部屋に入れると思う。でも君以外の女性はココには入れない事を約束する。
ふ~ん笑 そんな事言って大丈夫?出来ない事を簡単に宣言するもんじゃないよ?笑
大丈夫!やましいことはしない。
そっか。じゃ、遠慮なく~♪
改めて、よろしくね。
いつまで続くかなぁ~笑(嫌味たっぷり)
後悔してもしきれないが、彼女からの信用を失ってからというもの、僕はどう接すればいいのかを模索していた。
関係を終わらせなかったのは彼女の覚悟。
その覚悟を決して無駄にさせてはいけないと考え、自ら彼女の傍に住むことにした。
引っ越し先は彼女の住処から800mの距離。
行動が見えれば、少なからず会っていない時間に疑心暗鬼になることもないはずだ。
失った信用は2度と取り戻せない。
取り戻すのは、裏切ったけど反省した人という信用だ。
もう2度と彼女を悲しませない。
気持ちを入れ替えて彼女の笑顔に繋がる気配りをしていこうと思う。